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日本初の認定パッシブハウス

昨年11月の世界パッシブハウスデーで内覧が実現した鎌倉パッシブハウス。
この建物は、日本で初めてパッシブハウス認定を取得した森みわ氏(キーアーキテクツ)設計の住宅です。

[鎌倉パッシブハウスの主な性能]
Q値=0.76 W/㎡K、C値=0.16 c㎡/㎡、年間暖房負荷(20℃)=14.86 kWh/㎡年

引き渡しからおよそ3年を過ごされた施主のA氏にお話を伺うことができましたのでご紹介させていただきます。

鎌倉駅から15分ほど歩いたところに鎌倉パッシブハウスは建っています。観光客で賑わう表通りから敷地に続く路地に入った途端、それまでの通りの雑踏がウソのように閑静な景観が広がります。施主のA氏が、設計を依頼する前に土地だけは先に決めていて森氏を困らせたという本のくだり(世界基準の「いい家」を建てる 森みわ氏著)を思い出しつつも、エコ住宅を強く望まれていたA氏が選ばれた土地なのだと思うと妙に納得させられる雰囲気があります。

kamakura01.jpg※鎌倉パッシブハウス周辺の景観

閑静な住宅街を少し進んでいくと、写真で見覚えのある木の外壁を纏ったマッシブな住宅が佇んでいます。築3年ながら、程よく経年変化した外壁は周りの住宅や木々などの街の景観にとても馴染んでいます。

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到着すると、半袖Tシャツ一枚にジーパンという出で立ちのA氏に2階へと向かい入れていただきました。玄関から北に向かって設けられた階段を上るとすぐダイニングスペースになっており、真ん中がキッチンスペース、そして一番南側にリビングスペースが配置されています。

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まず説明いただいたのは、質問が特に多いという換気装置からでした。スティーベル社製の第一種熱交換型換気システム本体が玄関に入って目の前の機械室に取り付けられています。通常は、毎時120㎥の空気を換気するよう設定されているそうです。来客などで人数が多いときなどは130㎥/hに、そして家を空けるときは100㎥/hに都度切り替えをされます。

バスルームもこの換気装置でまかなっています。湿気によるトラブルがないのか質問したところ、基本的に海外メーカーの熱交換換気装置は湿気の除去にも対応しており問題ないとのお話でした。
キッチンのレンジフードは独立換気で同時給排型を採用されています。

換気装置のメンテナンスについては、月に一回フィルターの掃除を行う程度だそうです。運転音は、通常の120㎥/hの状態であればほとんど気にならないと仰っていました。

各部屋の給気口はすべて天井ではなく壁の上部に取り付けられており、給気の際の風が横に出る設計となっています。

来場者から、レンジフードを使った時に気圧が下がって玄関ドアが開けにくく(重く)ならないかという質問がありました。確かにそのような傾向はあるそうですが、少し重く感じる程度で生活に支障はないそうです。
実際に実験していただけることになりました。窓をすべて閉め切っていただき、レンジフードを点けた後、少し待ってから玄関ドアの開け具合を試させていただくという具合です。押してドアを開ける際に多少重さを感じますが予想していたよりはスムーズに開閉できます。同時給排の効果で、居室の負圧が軽減されていることを実感できます。

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次にご説明いただいたのが、窓サッシです。鎌倉パッシブハウスでは、全てパーツェン社製のトリプルガラス木製サッシ(U値=0.79W/㎡K)が採用されています。南側リビングは大きい窓が連なり開放的で、北側は比較的小さめの窓が必要に応じ配置されているといった様子です。小さめといってもしっかりと採光は取れていますし、特に2階は間仕切りがなく連続しているプランなので北側ダイニングでも閉鎖的で窮屈な印象はありません。

室内には心地よい風が吹きぬけます。この日は天気が良く、さらに涼しい風が北側から吹いていたので、来客前から窓を開けっ放しにしていたそうです。来場者の中には湿気云々を心配される方々も多いそうですが、A氏は数値がどうだからとか、湿気でやられるとか、パッシブハウスだからといったような制約には捉われず、自由に生活を楽しまれているようでした。設計した森氏も施主のライフスタイルに合わせて気兼ねなく生活されることが最終的には施主の暮しの快適性を高めるというお考えをお持ちのようです。

住んでみて気になった点を伺ったところ、夏場の屋根の蓄熱を挙げられました。
夏の猛暑日となる数日は、屋根の断熱材が昼間の熱を蓄熱していて、夜の間も逃がしきれず天井から放熱されることで、夜もこもったような暑さが消えない感じになることがあるそうです。ウッドファイバーという断熱材に蓄熱性能があり、それが夏場に悪さをしていること、陸屋根の水勾配が少なく、通気層による通気効果が不足していることが主な原因と森氏は分析しているとのことですが、今後の対策として、屋上の緑化を検討されているそうです。

また熱さを感じた時は、無理せずエアコンを使用するようにしているそうです。ただ、かなり効きが良いので点けっぱなしにすることはないと仰っていました。エアコンは各階に1台ずつ設置されています。上記理由で、夏場はそれなり使うようですが、冬はほとんど使うことがないそうです。

一通りご案内いただいた後、施主であるA氏にいくつか質問させていただきました。

●パッシブハウスを建てて良かったと思うことは?

 子供の健康だそうです。お子様たちは、前のマンション(調布周辺)でお住まいのころ、発作で入院したり、吸入器が手放せないほどのひどい喘息を患っていたそうですが、鎌倉に越してきてからは徐々に発作がなくなり、今ではほとんど発作が出ることがないそうです。前のお住まいでは、よく結露がおこり、カビも所々に発生していたそうで、そうした環境が病気の原因だったのではないかと仰っていました。ちなみに今のご自宅では、これまでの3年間、一切結露は起こっておらず、安心して生活ができているということでした。

●他の住宅と違いを感じた瞬間は?

 正月、ご実家へ里帰りした際に室内の温かさの違いに気付かれたそうです。
 以前は、環境的にご実家を好まれていた奥様も今では早く鎌倉のご自宅に帰りたがるようになったほどだそうです。ご両親も温かさの違いをお認めになり、来訪された時は長く滞在されるようになったと嬉しそうにお話しくださいました。

●冬場の乾燥については?

 冬場になると、そんなにひどくはないですが、やはり多少過乾燥気味にはなるそうです。
 その場合は、必要に応じて適度に加湿器を使われるとのことでした。

●パッシブハウスの一つの方向性として長期住宅という側面がありますが、20年後、30年後のここでの暮しのイメージはお持ちですか?

 「面積的に手狭であるので2世帯というのは考えられません。また、夫婦だけになるのか、子供に明け渡しているのか、それとも全くの他人が住んでいるのか、正直わかりません。ただ、この土地に建てたこの家は気に入っていて、仮に所有者が変わったとしても、この家と周りの建物を含め、この街の景観はずっと残ってほしいと思っています。」とお話いただきました。

●気になる光熱費は?

 A邸はオール電化でありながら、春や秋は、月8,000円程度、夏は冷房の使用があるので10,000円を少し超えるくらいで、冬は10,000円を切るくらいになるそうです。

施主のA氏には、とても貴重なお話をお聞きすることができました。
特に印象的だったのは、これまでの一般住宅と同じように自由に生活されている様子でした。開けたい時に窓を開け、必要であればエアコンや加湿器を使う。住まい手は、建物が高性能だからといって身構える必要は全くなく、これまで通りの生活を楽しむ。基本的には、それだけで良いのだと感じます。また施主様の設計者の森氏に対する信頼の高さも感じることができます。それは、健康的な暮しを手に入れたことや、結露が一切ないなど具体的な成果の積み重ねもあり揺るがないものになっているのだと感じました。

鎌倉パッシブハウスの建築仕様など、詳細は関連書籍やパッシブハウスジャパンの事例コーナーで紹介されています。ご参照ください。

http://passivehouse-japan.jimdo.com/パッシブハウス事例集-passive-house-in-japan/

問合せ先:キーアーキテクツ株式会社(TEL:0467-39-5730)


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